Laboratory for Particle Properties (Phi-lab)
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中性子寿命の精密測定



物質を構成する粒子は単位時間あたりにある割合でさらに小さな粒子に崩壊し、粒子の数が全体の1/eに減るような時間を寿命といいます。 そして、原子核に束縛されていない自由中性子は陽子、電子、反電子ニュートリノに寿命15分でβ崩壊します。

中性子寿命は物理学における重要なパラメータです。
(1)ビッグバン元素合成理論
宇宙開始時の爆発現象とされるビッグバンの瞬間、陽子と中性子は同じ数作られたと言われています。ほとんど崩壊しない陽子に対して中性子は寿命が15分程度なので時間の経過とともに陽子と中性子のバランスが崩れていき、ある確率で結合し原子核が合成されます。初期宇宙の物質密度から陽子と中性子の結合確率、合成された原子核を予測する理論をビッグバン元素合成理論といいます。ここで、ビッグバン後の中性子数は寿命によって決まるので、中性子寿命はビッグバン元素合成理論の重要なパラメータであると言えます。

(2)CKM行列のユニタリティ検証
素粒子標準理論でクォークの性質を表すCKM(Cabibbo-Kobayashi-Masukawa)行列の要素Vudは中性子寿命から求めることができます。VudはCKM行列のユニタリティ検証の重要なパラメータであり、実験で得られた行列要素からユニタリ性を検証することで標準理論を超えた物理過程の示唆が可能になります。

中性子寿命測定には大きく2つの手法があります。
(a)In-Beam法
ビーム状の中性子がある領域を通過する時間内にβ崩壊する数と入射中性子フラックスの比から中性子寿命を求める手法です。

(b)Storage法
中性子のエネルギーが 25 neV 以下(超冷中性子)になると、ニッケルなどのフェルミポテンシャルを下回ります。そのため、内壁に中性子反射材を施されたボトルには中性子を蓄積することができようになります。中性子を一定時間蓄積した後、ボトルに残存した中性子数から中性子寿命を求める手法です。

しかし、これら2つの手法で測定された中性子寿命の値には8秒の差が生じています。この8秒の食い違いはNeutron Lifetime Puzzleと呼ばれており、手法由来の系統誤差であるのか、未知の物理によるものなのか結論は未だ出ていません。

そこで我々はJ-PARC MLF BL05にて、これら2つの手法とは異なる系統誤差をもつTPC(Time Projection Chamber)を用いた手法で中性子寿命測定実験を行なっています。そして、中性子寿命を1秒(0.1%)の精度で測定することで真の中性子寿命導出を目指しています。
測定では、スピンフリップチョッパーを用いることでTPCに収まるサイズの中性子バンチ(中性子の塊)を作ります。そして、TPC内で「中性子β崩壊(数)」と「(入射中性子フラックスを導く)TPC動作ガス3Heと中性子の吸収反応(数)」を同時に検出することにより中性子寿命を決定します。

現在、我々は中性子寿命を20秒(2%)の精度で導出しています。
そのため、効率よく統計精度をあげる上流光学系のアップデートや系統誤差を改善する解析などにより目標精度達成を目指しています。

(左)J-PARC MLF BL05 (右)Preliminary result (2020年7月現在)